行商レポート vol.16:OUT of PLACE

courtesy of each artist, OUT of PLACE, gemba-firm and SPIRAL/Wacoal Art Center
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アウト・オブ・プレイスのギャラリー紹介は こちら から
他の展示風景・作品画像は こちら から。


そう言えば、行商はふたつの部門に分かれています。最初の記事や出展ギャラリーの項目に書いてある様に、ひとつのコーナーがあり床面に立体作品を設置出来るアルゲマイネに出展していたギャラリーが、ひとつ前の記事で更新したレントゲンヴェルケまで。そして、これから更新して行くのはユンゲ、単一壁面に出展している10のギャラリーは、開廊5年以内か代表者の年齢が40歳以下という、フレッシュな顔ぶれになります。

ユンゲの最初に紹介するのは、アウト・オブ・プレイス。05年に奈良で設立されたギャラリーです。09年には東京・広尾に2店舗目となるトキオ・アウト・オブ・プレイスを新たに開廊、今回行商への出展内容をディレクションしたのは、トキオ〜でディレクターを務める鈴木一成さんです。奈良の代表である野村さんもいらしてました。出展作家は大原舞さんに隠崎麗奈さん、ナカタニユミコさん、関智生さん、森村誠さんの5名。「毒のある」と言うと語弊があるかも知れませんが、それぞれの作品の一筋縄ではいかない可愛さが、他の作家陣とは空気感の異なる関さんの作品とも上手く溶けあって、ブースをポップに彩っていました。

大原さんはナタリーと呼ばれる女の子の人形作品を出展。日本の女性誌では見掛けない(いや、私自身が女性誌を好んで読む訳じゃないから、知っている事に限界はありますが)ファッショナブルな彼女達からは、仮に大原さんが大原さん自身や近しい人達の為に作り始めた事がきっかけだったとしても、どこか時代性や特定の場所の雰囲気を超えたスタンダードさを感じました。このブログ史上もっとも勘違いかも知れませんが、何故かアナ・スイのパッケージの中である種の物…と書こうと思って検索したら、なんか全然違いますね、アナスイ…ああ、アナスイ…。ナタリーには普遍さがある、みたいな事を書いておきながら、連想と妄想の飛躍でナタリーがチェルシーを歩いていました、みたいな感じで手打ちしてやって下さい。隠崎さんはエポキシ樹脂を素材に可愛い作品を作っています。今回の作品みたいに表面が何かしらコーティングされた様な感じではなく、ツルツルの素材感であっても「砂糖にまぶした様な」と言いたくなる感じ。なので、2点出展されていたドローイングの様な平面作品は意外で、静かさも孕んでいるその世界観は、今後の新しい展開を期待させてくれました。ナカタニユミコさんは独特な色彩で切り取られた風景画を多数出展。記憶に残っている景色を、ポップというにはもうちょっと癖のある色彩で描き出している様に見えました。記憶と言うか、脳裏に新たに作り出したと言えばいいのか、後者だったら違ってくると思うのですが、記憶=過去と括りつけたらあまりに短絡的なものの、その色彩でありながらどこか郷愁を勝手に感じていました。

関さんと森村さんは、開催延期になったアートフェア東京に出展する予定だった作家さんみたいですね。関さんは「補色の赤を使って緑:アジアの植生を表現する」(ギャラリーHPより)シリーズの作品を4点出展。描かれる対象はよくある風景なのかもしれませんが、その在り方によって部分部分を描く方法論や様々な絵具を変えて制作しているため、それを知らずに一見しただけでも、不思議な迫力を感じられる作品だと思います。赤は勿論人間の血液の色な訳で、見掛け上の美しさや技術という以上に、視覚を通して本能にも訴えかけているのかも知れません。森村さんは十字に展示された蝶の作品、タイトルは「夜の蝶」。ひとつひとつの蝶は「夜の蝶」が在籍するお店のチラシで折られているそうです。なので、そこに書かれている「〜千円ポッキリ」が作品の価格(実際はどの蝶も同額)になっています。もう、ニヤリとするしかありませんね(笑)蝶自体は誰でも折れる折り紙だと思うのですが、そこにユニークなアイデアが加わってアートに変わっていきます。

行商レポート vol.17:eitoeiko

courtesy of each artist, eitoeiko, gemba-firm and SPIRAL/Wacoal Art Center
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エイト・エイコのギャラリー紹介は こちら から
エイト・エイコに関しては撮影した全ての画像(1点を除く)を当記事に掲載しています(出展者リストとして PHOTOSTREAM にも載せています)


ブースの壁を目一杯使い非常に多くの作品を出展して楽しませてくれたのは、神楽坂のギャラリーeitoeiko。その壁面一杯を占めるのは江川純太さんの抽象画。ていうか、ディレクター・癸生川さんのブログを読んだら、江川純太祭りって書いてありましたね〜。薄い灰色の背景に散らばる厚手に塗られた様々な色彩の結晶達は、その色その形その連続性によって、見る人それぞれに解釈を委ねる鍵となっている様です。あるいは灰色の画面を破り出てくる色の層を楽しむ子供の動きを想像してしまいました。暗闇の奥に見える光の層や粒が印象的な村岡佐知子さんの作品とも類似する部分があるなぁと、まぁ他の作家と比較しても仕方ないのですが、ふと江川さんについて少し調べてみたら、江川さんと村岡さんって、鎌倉にあった作家主導のギャラリースペースを共同運営していたメンバーで仲間なんですね。ビックリしました。

どちらも清潔な白が印象的なのは、女性胸像の高杉恵さんとストーンエッチングの白須純さんの作品です。白須さんの作品を背景に高杉さんの作品が置かれているのって、ふたりとも今回eitoeikoから出展された作家の中では特に、海外での制作経験や実績が豊富な作家同士なので、面白い位置関係だなぁと思いました。色彩が対称的で展示に面白さを加えている写真作品は、ニッポリーニと谷井隆太さんによるもの。個人的にふた組の個展には行こうと思って行けなかったので、実作品を見れて良かったです。ギャラリーの方向性や今年のモードを発信出来るのもアートフェアの場ではありますが、場合によっては見れなかった作家作品のフォローが出来たりして、ひとつぶでふたつお得だったりもします。〆は青秀祐さん。外見を実物そっくりに似せた模型(ここではモックアップと呼ばれる木製原寸模型)に和紙デカール(和紙への転写)の技法で、工業製品としてのジェット機を美術作品として再構成した作品になります。展開図におけるジェット機の図形的な組み合わせのバランスの妙は、視覚的に面白くて見ていて飽きません。また青さんは、組み立てたジェット機のひとつひとつを部分としてダイナミックなインスタレーションを展開していたりするので、小さなその飛行機が大きく羽ばたいてゆくを想像するのも楽しいんじゃないでしょうか。機会があれば、その壮大なインスタレーションも是非目撃して頂きたい物。

ギャラリーブースの企画テーマは、江川純太祭りであるとともに、言葉通りの行商において持ち回る風呂敷を広げた姿だったそうで、確かに、歩いて回った先にいる色んなお客様が楽しめる内容になっていましたね。

行商レポート vol.18:M7: MAQUIARTO 7TH FLOOR ART ROOM

courtesy of Keiko Iida, Chisato Saito, M7: MAQUIARTO 7TH FLOOR ART ROOM, gemba-firm and SPIRAL/Wacoal Art Center
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愛称はえむななで!

えむななのギャラリー紹介は こちら から
えむななに関しては撮影した全ての画像を当記事に掲載しています(出展者リストとして PHOTOSTREAM にも載せています)


清澄白河東京都現代美術館の間近にあるマンションの7階にビューイングルームを併設した美術事務所を構える、アートプロデューサーのマキアルトが紹介するのは、'10年のアーティストファイルに出展した「気泡」シリーズで広く知られる事となった斎藤ちさとさんと、ユニークな制作アイデアから生み出された作品群が強く印象に残る飯田啓子さんのおふたり。斎藤さんは写真作品を額装で、飯田さんは写真作品をアクリルマウント、及び人形や立体作品を出展していますが、同時にマルチプルと言えばいいのでしょうか(迷うなよ)、ふたりの作品をM7エディションズとして手に入れやすいサイズと価格で販売していました。作品の発する魅力は変わらないので、おふたりの作品のファンになった方がに優しくていいですね。

只今(4月13日)は事務所代表のやのさんが出張しているみたいなので受け付けてはいないのですが、マキアルトとして協働している作家をビューイングルームで展示している時はその情報がギャラリーHPに載っているので、随時ご確認頂き、興味ある作家が展示をしていたら是非見に行って頂ければと。電話やメールで事前に予約しつつ、書いた通りマンションに入居しているので、オートロックの自動ドアを開ける為に、ギャラリーが入居する部屋番を押して中に入る事になります。ギャラリー巡りに馴れていてもドキドキしますが、中に入れば素敵な作品と素敵な代表が皆さんをお待ちしております。以上、ギャラリー紹介終わり。詳しくはHPを見てね。色んな活動をしている美術事務所です。

モチーフとなる様々な風景が、炭酸水の泡の向こうでユニークな表情を見せる斎藤さんの作品。泡そのものが持つ属性や社会的な意味合いの多様性から、観客が自ら作品に付与するコンセプトの味わいが幾らでも深くなる斎藤作品ではあるのですが、写った泡そのものの質感や、ピントの位置によって遠近感や輪郭を失う部分が作品毎に変わったりと、作品の持つ表情だけで素直に楽しめるます。個人的に好きなのは、泡から硬質な印象を受ける、ピントが泡に合っていて風景が完全にボヤけている作品です。現実に存在する泡が硬い訳はなく、コンセプトと技術が泡と言う存在に新しい意味を与えている様で面白いんです。輪郭を失った風景は泡が持つ何かしらの強度を表しているようで。弾けるからと言って即ち儚い、ではないんですよね。泡を成す水は生命の源だし。作品の出発点として素粒子論や宗教観もあったりするそうで、見た目にシンプルな作品の持つ意味は相当に深そうです。

飯田啓子さんは身近な物・食べ物をスキャンし、それらが持つ思わぬ美しさやそれらに対して持つ我々の思いを掬い上げるシリーズの写真作品に、切手の貼られた双頭のダルマ、ボタンで作られた人形の「ボタンズ」などなどを出展。中でも特に印象的だった、食べ物をスキャンしたシリーズについて。黒い背景に映えるキャラメルやおかき、桃缶の色彩が、殊のほか綺麗でビックリする訳です。個人的にはキャラメルを包む紙の可愛さがツボでした。何でもかんでも身近な物を無造作にスキャンしまくる訳ではないと思いますし、さり気ない選択の中に飯田さんの色に対する意識の高さを感じます。作品を作品足らしめる理由は他にあるのかも知れませんが、何気ない日常の中に美しさを見つける事が上手な作家なんだろうなぁと。同じシリーズとして括っていいのか分かりませんが、コンビニ弁当をコンビニでスキャン(要はコピー)し作品とする「メイド・イン・コンビニ」は、行商当日はブックで見れた筈ですが、そちらもユニークで面白いですよ〜。